【千葉市】小さなパン屋、モワティエさん
WRITTEN BY 格さん
JR安房鴨川駅から車で10分ほどの場所にある「粟斗(あわと)温泉」は、3代目の山比羅アツ子さんが女将を務める日帰り温泉です。女将の祖父が、人力で井戸を掘る「上総(かずさ)掘り」で源泉を掘り当てました。地域内外から愛され続けている、100%源泉の秘
湯を紹介します。
田園風景を横目に、ナビに従いながら粟斗温泉へと車を走らせると、水仙が咲き誇る道沿いに温泉マークと「あわと」の文字が。車から降りると、水仙の甘い香りが漂ってきました。看板の向こう側に白く映える建物が、粟斗温泉です。初めて東京オリンピックが開催された1964年にオープンしました。

道を挟んだ向こう側に流れる待崎川(まちざきがわ)には源泉が流れ込むため湯の花が見 られ、浸かると肌がツルツルになることから、人々は昔から川に入っていたそうです。その後、源泉を掘り当てた女将の祖父が粟斗温泉をオープンし、日帰り入浴と旅館をスタートしました。
地元の人はもちろん、遠方からも粟斗の湯を求めて通うファンが多く、地域のコミュニティの場になっていましたが、建物や設備の老朽化のため2024年2月に休業に入りました。

田んぼで米を収穫した後も稲わらがゴミにならず、暮らしの中で生かされていく——そんな田舎の営みに惹かれて鴨川へ移住した人がいます。藤井照久さんは東京で生まれ育ち、何でもお金に換算して時間を売るような生活に疲れていました。循環してゴミが出ない暮らしこそ「生き物として正しい」と実感し、鴨川に拠点を構えました。

拠点にキャンピングカーを置き、東京と鴨川の二拠点生活スタートと同時に、粟斗温泉の常連客になった藤井さん。「ここの佇まいが気に入っちゃった」と言い、ほかの温泉に行 く理由が見つからないまま、粟斗温泉一筋です。
知人を介して、女将から粟斗温泉の現状について相談を受けた藤井さん。「鴨川の文化的意義があると思ったし、なくなってはいけないものがここだと思う。やれるだけやって、できなければ次を考えよう」そう思った藤井さんは、昭和の良さを残しつつリフォームを始めました。
藤井さんの頭の中には、粟斗温泉の外観を見たときから完成のイメージ図があり、古い昭和の旅館を活かしつつ個室に新たなフローリングスペースも設けました。

玄
関横には貴重品入れのロッカーが置かれ、女将がいるカウンターは航空会社の受け付けカウンターを利用。廊下の右側は木造建築。左側は増築された鉄骨部分で間に壁がありましたが、壁を取り払い、広くて明るいスペースにしました。鉄骨が見える状態ですが、違和感なくくつろげる場所になっています。

現在はチャイ、生絞りみかんジュース、コーヒー牛乳のドリンクメニューのみですが、近日中にうどんやカレー、豚汁などの軽食を提供する予定。また、鴨川市と南房総市の境目 の山で週末だけオープンする「さくちゃんラーメン」が、ここで不定期に営業することもあるそうです。
無料で使える大広間のほか、元客室をリフォームした有料の個室や麻雀部屋を新たに新設。一日のんびりと自分のペースで楽しめる温泉として、2025年11月末にひっそりとリニューアルオープンしました
浴室は、男湯と女湯が対称になっていて広さは同じ。浴槽のほかにシャワーが3つあります。浴槽の蛇口は、お湯も水の蛇口もどちらをひねっても100%の源泉が出てきます。「温泉分析書」によると、“14.5度の気温で調査したときの泉温は18.2度。知覚的試験は微黄色透明、無味、弱硫化水素臭を有する。泉質は単純硫黄冷鉱泉(低張性・アルカリ性・冷鉱泉)”
浴用の適応症には、アトピー性皮膚炎、尋常性乾癬、慢性湿疹、運動麻痺における筋肉のこわばり、冷え性、胃腸機能の低下、自律神経不安症、疲労回復、健康増進など、他にもたくさん記載されていました。

実際に温泉に入ってみると、少しヌルっとした感触のお湯でぽかぽかと身体の芯から温まっていきます。「そろそろ出ようかな」と思うのですが、何だかもったいなくて後ろ髪を引かれ、水で手足を冷やして休憩してから再び入浴。これを何度か繰り返しました。
石鹸とリンスインシャンプーが置いてありますが、私は愛用の石鹸で頭からつま先までを洗っているので、それを持参しました。銭湯や温泉によっては、石鹸で髪を洗い流すときしむことがありますが、粟斗温泉では全くきしまず、リンスを使ったかのような触り心地になってビックリです。
冬は乾燥して手足は粉を吹いて白くなってしまうのですが、入浴後は粉を吹きませんでした。翌朝顔を洗ったときの自分の肌触りがあまりにもすべすべで、うれしくなりました。生まれたときからこのお湯で育った女将は、東京で暮らしたとき肌が荒れたそうです。「鴨川に戻って少ししたら、手荒れやブツブツがあった肌がきれいになった」と話す女将の肌は、私から見てもとてもきれいでした。

大広間で寛いでいたお客さんは、「鉱泉がいいから昔よく来ていた。今は週1くらいで通っている」という方や、「昔から来ていたけど、営業を再開してから今日が初めて。この辺じゃ一番いいお湯だと思う」と話す人も。

現在、粟斗温泉の裏手で工事が進んでいます。耕作放棄地だった場所を譲ってもらい、木 を伐採して整地し、源泉水風呂付きサウナを建設中。車中泊やキャンプ泊の人に、温泉と合わせて利用してもらえるキャンプ場を整備しています。平日は地元の人たちにゆっくり温泉に入ってもらい、週末は遠方からのお客さんに車中泊やキャンプ泊をしながら温泉を楽しんでもらえる場所。そんな粟斗温泉を目指しています。

年末年始に営業をしたとき、昔を懐かしんで訪れた常連客たちがいました。お風呂で温まり、そのあとは食堂に集まって昔話に花を咲かせました。「お風呂はコミュニケーションの場。風呂上がりに交流して、情報を交換する。ネットがないときから、ここはリアルに顔を合わせて交流してきた大切な場所」と、藤井さんは改めて粟斗温泉という場所の大切さを実感したようです。

「いろんな声があって、何とか粟斗温泉を復活させるところまで来れた。これからより楽しんでもらえるように、軽食の提供やサウナ、露天風呂、キャンプ場を併設していきますので、良かったら足を運んでください」と、藤井さんは話しました。
【詳細情報】
名称:粟斗温泉
営業時間:10:30~19:00(最終受付18:30)
定休日:水・木曜日
入浴料:平日1200円 土日祝日1500円 中学生未満は一律500円
※鴨川市民割あり
個室:1500円~
貸しタオル:100円 ※販売無し
住所:〒296-0031 千葉県鴨川市粟斗1070
電話:04-7092-1451
取材協力:粟斗温泉
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バックパッカーで世界を旅して漂着したのは、千葉県房総半島の安房(あわ)。ボロボロ古民家を仲間と改修しながら、犬猫ヤギと暮らしはじめる。安房の自然にどっぷり浸かりながら、アウトドアや暮らしを堪能しつつ、魅力ある人や場所を紹介している。
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