【千葉市】小さなパン屋、モワティエさん
WRITTEN BY 格さん
自分の手で家を建ててみたい。そこに立つ木を利用して、自分の力でログハウスを建てたい。そんな想いを一度は抱いたけれど、結局諦めてしまった人は、意外と多いのではないでしょうか。今回紹介するのは、森の中に佇むコケの屋根を持った六角形のログハウス、「丸太炉庵(まるたろあん)」です。建てたのは、チェーンソー初心者の、6人の大学院生たち。この場所で間伐した杉の木を利用し、森に入るための道造りからスタートしたログビルダーたちの道のりを紹介します。
鴨川市釜沼集落には、山奥にある水源地の水と雨水で稲を育てる、昔ながらの棚田があります。「一般社団法人小さな地球(以下:小さな地球)」が、「地縁血縁を超えたみんなのふるさと」を目指して活動している場所です。

1960年代、茅葺き屋根を葺くための茅場が山にあったころは、人が山に出入りしていました。しかし、茅葺き屋根が姿を消し、木を燃料として使わなくなった現代では、山に入 る人が減り、次第に山は荒れていきます。そんな荒れた山を襲ったのが、2019年の「令和元年房総半島台風」でした。
2024年4月、小さな地球を舞台に、建築系の大学生を対象にしたデザイン教育プログラム「里山スクールオブデザイン」に参加した学生たち約30人が、倒木の片付けを開始。道を拓くことで再び人が山に入り、そこで得られる資源の利用や森を活用する新たな構想が生まれます。その活動拠点をつくるため、東京科学大学(旧東京工業大学)塚本研究室の学生6人が動き始めました。
山の手入れで手に入った、状態の良い倒木を利用してログハウスを建てようという案が出ますが、ログハウスを建てた経験が無いため、果たしてこの倒木でログハウスが建てられるのか、誰も判断できません。

学生たちと一緒に作業をしていた、小さな地球の共同代表である林良樹さんは、『小屋大 全』などの著書がある編集者にしてログハウスビルダーでもある西野弘章さんに相談し、現地を見てもらうことに。台風からすでに5年が経過し、一部の表面は腐り気味の杉丸太で、短い材を使うために学生たちが設計したのは、六角形のログハウスでした。
「六角だと角度的にノッチ(交差部)組みはどうなるのか?」と思った西野さんは、六角 形の丸太テーブルを試作し、学生たちにログハウス造りに役立つ六角形の丸太テーブル作りワークショップを開きます。

一
日
のワークショップで、一番の難所であるノッチの加工もクリアして、六角形のテーブルを完成させた学生たち。この経験を糧に、六角形ログハウス造りをスタートさせます。

「台風の倒木を使おう」から始まったログハウス造りですが、研究室の塚本由晴先生とも相談し、森を間伐してその材を使うことに決めます。2025年2月、プロに約18本のスギを間伐してもらい、人力でも運べるよう3メートルに切ってもらった丸太が約80本できました。
丸太が乾燥する前に皮を剥き、基礎に使う御影石を運搬車で運ぶために必要な、幅40センチの道を整備して石を運びます。

現場で墨付け、刻み、調整をしながら積み上げていき、39本が積みあがった6段の壁が完成。肩より上の高さに丸太を持ち上げるのは大変なので、自然と壁の高さが決まりました。

壁ができて初めて屋根の構造について考え、重機や足場を必要としないログ構法を応用することに。壁の丸太を中心にずらしながら井桁に積み上げ、中で焚く火の煙を逃がしやすいようにしました。

譲って貰った端材と、日新工業株式会社社長の相臺志浩(そうだいゆきひろ)さんに提供してもらったルーフィング材を使い、学生たちは相臺さんから現地でアドバイスを受け、作業を進めました。
屋根にスギ皮を使うという案もありましたが、20本以上の皮剥き間伐が必要になり、2年後3年後の負担も見据えて選びませんでした。そんな彼らが選んだ屋根は、苔です。森には湿度もあるので、山奥のアスファルトに付いていた苔を集めて乗せた8月、丸太炉庵が完成しました。
人が入らなくなった電気柵の向こうに広がる山。その奥に広がる森に、新陳代謝を促すように整備し、倒木を利用して階段や土留めを作り、古道を整備した先に、丸太炉庵があります。

整備したとはいえ急な山道を進むため、建設現場の森まで自分たちで運べる必要最低限の道具を選ぶ必要がありました。チェーンソーと墨出しの道具のみで、現地にある材を使って建てることができるログハウスは、とても理にかなっていたのです。
人力で丸太を運ぶために丸太の長さを3メートルに切りましたが、それでも、一本100キロ以上の重さがありました。四角形よりも多角形の方が室内面積を多くとれますが、辺が交わる角度が大きくなるとジョイントを刻む部分も多くなるので、六角形が最適だと判断。
フィンランドでは、実験住宅のことを「コエ・タロ」と言い、コエ・タロという名前のログハウスがあると、学生が教えてくれました。それが丸太炉庵の由来にもなっているそうです。

8月のある日、学生や建築に関わった関係者たちが集まり、丸太炉庵で火を囲みました。煙は天窓へと向かい、壁の下にある隙間からは心地いい風が入ってきます。
火加減を調整して野菜を焼きながら、「できない理由が山ほどあった」と当時を振り返り、「できない理由を探すより、できることを探すことを学んだ。建てることが目的だったけど、周りにある材を使うことの大切さや、そういう姿勢を学びました」と、学生が得たものを丸太炉庵で共有しました。

チェーンソーを使って小屋やテーブルを作っている西野さんのフィールドを訪れた冬を懐かしみながら、「勇気を貰えたし、あそこで覚醒した。『できるよ』って、背中を押してもらえました」と語る学生。その言葉を聞いて、「不安だったけどね」と、西野さんは笑います。
建築が持っている力で、人が森に入るきっかけを作り、人が定期的に訪れる場所を作るのが目的で始まった小屋造り。それをやり遂げた学生たちは、「小屋がきっかけで、足元の整備のために半年森林整備をして、ランドスケープを整え、小屋造りと土地の手入れがつながっていることを学びました。森にある材料を切ってもらうところから関われたのも、自信につながっています」とすがすがしい笑顔で話しました。
「ここまで本格的な六角組みで、さらに石場建ての丸太小屋は、たぶん日本初でしょう」と言う西野さん。それを重機を使わず、チェーンソー片手に造り上げたのは、20代の学生たちでした。

海外留学で既に飛び立った仲間、これから飛び立つ仲間、就職に向けて動き出す仲間。彼らの道はそれぞれですが、ここでの経験はさまざまな場面で応用できるでしょう。丸太炉庵の炎が彼らを照らし続け、一度は諦めたあなたの憧れに再び火を灯しますように。

【詳細情報】
名称:丸太炉庵
場所:〒296-0231 千葉県鴨川市釜沼875 一般社団法人小さな地球フィールド内
小さな地球公式サイト
取材協力:東京科学大学塚本研究室の学生たち、一般社団法人小さな地球、西野弘章、丸太炉庵に関わったみなさま
※順不同
SHARE:
バックパッカーで世界を旅して漂着したのは、千葉県房総半島の安房(あわ)。ボロボロ古民家を仲間と改修しながら、犬猫ヤギと暮らしはじめる。安房の自然にどっぷり浸かりながら、アウトドアや暮らしを堪能しつつ、魅力ある人や場所を紹介している。
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