【千葉市】小さなパン屋、モワティエさん
WRITTEN BY 格さん
繭(まゆ)から糸を取り出し、シルク糸の間に押し花を添えたオリジナルのランプシェード作り体験を行っている人がいます。米農家であり、養蚕(ようさん)農家でもある内記(ないき)朗さん。南房総で唯一の養蚕農家として、繭を生産して出荷している現場を紹介します。
千葉県内の養蚕農家は現在、内記さんを含めて2戸。つい数年前までは4戸ありましたが、継ぐ人がいないままついに2戸になってしまいました。「貴重な存在になっちゃった。まいっちゃうね」と、内記さんは悲しそうに呟きました。
養蚕農家の高齢化と後継者問題は、千葉県内に限ったことではありません。一般財団法人大日本蚕糸協会の資料によると、2005年に1,591戸あった全国の養蚕農家数は、2024年には134戸になっています。2024年の年齢構成は、70歳以上が64.9%、39歳以下は7.9%でした。70歳以上の養蚕農家の9割に後継者がいない理由として、養蚕農家の時給の低さが挙げられています。労賃から試算した時給は550円。日本の伝統・文化とともに受け継がれてきた養蚕という仕事を、時給550円で引き継ぎたいと思う人は果たしているのでしょうか。
内記さんは米づくりの合間をぬって年に2回、養蚕を行っています。この道47年。一番多いときは、年に7回養蚕を行ったこともあります。
蚕(かいこ)は3ミリ程度でふ化し、4日経ったものを「1齢」と呼び、その後桑の葉を食 べるのを止めて眠ったようになる「眠(みん)」に入ったあとに脱皮し、「2齢」になります。

3齢になった蚕66,000頭が内記さんの元にやってきました。蚕は昔から家畜として大切に扱われていたという歴史から、「一匹」ではなく「一頭」と数えられています。大きな枝付きの桑の葉を置いたところに、12mmくらいの小さな蚕がたくさんいます。この日 から3日で眠に入り、眠と脱皮を繰り返しながら約1カ月で5齢まで成長すると、繭を作りはじめます。

気温にもよりますが、基本的に「飼育標準表」通りに眠に入って成長していくため、予測しながら予定を立てやすいのが養蚕の魅力です。表によると、27,000頭が桑の葉を食べる量は、4齢で一日29kgから多いときで56kgになります。5齢に入ると多いときで一日 に200kg以上食べる日が数日続きます。内記さんの場合、66,000頭飼育しているので、2倍以上の桑の葉が必要になります。

雨に濡れた桑を与えると環境が悪くなり、病気の原因にもなるため、雨予報の日の分も事前に収穫しておかなければなりません。

1円玉にも満たなかった蚕は1カ月ほどで75mmまで成長し、繭をつくりはじめます。これらの成長過程は、「蚕の顔を毎日見ないと分からない。体が光ってくるとか、機嫌が悪いとか、表を確認するだけでなく自分で観察しないと」と内記さんは言います。体が透き通って光ってくると、繭を作り始めるサインだそうです。

内記さんは、スズメバチの殺虫剤を使った結果、蚕を半分殺してしまった経験がありました。農薬や薬を吸った桑の葉を食べた蚕は、繭になりません。蚕を見ていると、農薬がどう撒かれているのかがよく分かるそうです。

蚕が糸を吐きはじめると1~2日で繭になるので、150の部屋に仕切られた「まぶし」を、蚕の重みで回転する「回転まぶし」にセットし、上へ上へと上る蚕の重みでまぶしを回転させて、均等に部屋に入るよう促します。

自分の部屋で繭を作り始めた蚕は、2日で繭を完成させ、3日ほどでサナギになり、12日 くらいで成虫になって繭から出てくるので、その前に出荷作業を行います。

まぶしを通して繭だけを落とす機械にかけ、繭を専用の布袋に入れたものを農業協同組合(JA)の担当者が計量しました。

繭の重さは全部で106.3kg。内記さんの目標は、66,000頭に対して120kgだったので及びませんでしたが、サンプリングの結果は241個で500g。繭が小さいと500gに280個必要なときもあるので、サイズはいい塩梅でした。

計量後に繭を布団圧縮袋に入れ、4日間圧縮して「生(なま)びき」にしてサナギを殺します。熱処理や冷凍処理などいくつかの方法がありますが、生びきは千葉県独特の方法で、乾燥させた繭よりも色が白く、価値がある方法の一つとされています。

毎年11月23日に茨城県の笠間稲荷神社で開催される伝統行事「新嘗祭・献穀献繭祭(にいなめさい・けんこくけんけんさい)」に納める繭を、硬さ・色・厚み・形の良いものを一つ一つチェックして選びます。選ばれた400gが献穀献繭祭と献繭品評会に納められます。
内記さんは20年以上新嘗祭・献穀献繭祭に納めていて、この時納めた繭は献繭品評会で第2位、笠間市長賞も受賞しました。

内記さんは、繭を使って糸をとるところから体験できる、ランプシェード作り体験を「繭灯り夢工房」として行っていて、鴨川市のふるさと納税にもなっています。現在内記さんの元には、弟子入りした若者がいます。鴨川在住の永井弘郎さんが手伝いながら、ともに作業を行っています。地域のイベントにも一緒に出店し、ランプシェード作りワークショップを行ったこともありました。

冒頭でお伝えした通り、養蚕農家の時給は550円程度なので、繊維とは違う目線で、化粧品や石鹸に挑戦しようと頑張っています。また、子どもたちに蚕の一生を通して命の大切さを伝えることにも力を入れています。「時代に合わせてやり方を考えつつ、食いぶちを稼ぎながらいかにして守っていくか」を考え、内記さんと永井さんは二人三脚で今季も養蚕に取り組んでいます。

【詳細情報】
名称:繭灯り夢工房
住所:千葉県鴨川市貝渚840-4公式
webサイト(外部リンク)
取材協力:繭灯り夢工房
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バックパッカーで世界を旅して漂着したのは、千葉県房総半島の安房(あわ)。ボロボロ古民家を仲間と改修しながら、犬猫ヤギと暮らしはじめる。安房の自然にどっぷり浸かりながら、アウトドアや暮らしを堪能しつつ、魅力ある人や場所を紹介している。
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