【千葉市】小さなパン屋、モワティエさん
WRITTEN BY 格さん
南房総には、日本三大うちわの一つ「房州うちわ」があります。2003年に千葉県で初めて国の伝統的工芸品として指定されたのも、この房州うちわです。房州うちわ唯一の伝統工芸士であり、経済産業大臣指定伝統的工芸品製作者の太田美津江さんに、房州うちわについて話をうかがいました。

半年以上前から、風神雷神のうちわを作ろうと夫と話していた太田さん。ちりめんの布に風神雷神を染めてもらうため、京都の染屋に依頼をしていました。
その後、7月3~6日にパリで開催されるJapan Expo Paris 2025のパビリオン「WABISABI」で、房州うちわの実演が決定。パビリオン「WABI SABI」のテーマが発表されると、なんと風神雷神でした。

太田さんは、風神雷神の房州うちわを持って、パリへ向かいます。扇ぐと鈴の音が心地よく響くうちわは、太田さんが大好きな猫をデザインしたもの。

日本三大うちわには、房州うちわのほかに丸亀うちわ、京うちわがあります。私たちがよく目にするうちわは、そのほとんどが丸亀うちわを竹ではなくプラスチックで再現したもの。京うちわは、柄を差し込む構造になっています。

房州うちわの特徴は、一本の丸い竹を使ってうちわにしていて、立体的で美しい格子模様の窓も特徴的です。

太田さん「もともとは江戸うちわでね、武士の内職だったんです。弓矢の矢に使った竹の残りで作られたのが始まりだと言われていて、基本一本の丸竹を使っています」
「うちわの太田屋」として房州うちわを作り続けている太田さんですが、店によって房州うちわの形が異なるそうです。ただ、大型、中型、柄長という種類は、多少形が違ってもだいたい同じ。先代のデザインを見ていると、「紙を無駄なくとれるような形にしてある気がします」と、太田さんは言います。
「大満月」と名付けられた、大きな房州うちわ。これを作るには、竹の節と節の間が27センチ必要です。江戸の職人たちがこれを作るようになったのは、節と節の間が長い房州の竹が手に入るようになってから。大満月はまさに、房州でしか作られない、房州うちわのなかの房州うちわといえるのではないでしょうか。

太田さんが代表を務めている「房州うちわ振興協議会」のwebサイト
によると、房州うちわを作るためには21の工程があると書かれています。
房州うちわは昔、完全な分業で作られていました。竹屋さんが竹を採ってきて、太田屋で皮を剥いて磨いて、洗って干してから割き職人さんの元へ持って行きます。割かれた竹には角があり、そのままでは糸で編むときに糸が切れてしまうので、「もみ」という工程で角をとります。
太田さん「磨いた竹を1~2週間に一回割き屋さんに持って行って、できあがったものをもらってくる。それが済んだら柄詰(えづめ)屋さんに持って行く、編み屋さんに持って行く、というじゅんぐりです。いっとき、割き屋さんは6~7人いましたもんね。だから1カ月経つと、割かれた竹で山のようになっちゃう。それを全部もんで、一週間ずぅっともみをやってるとかね。見えない工程がいくつもあるんですよ」
いろんな工程の職人さんがたくさんいて、太田屋にも職人さんがいました。太田さんが子 どもの頃は、おばあ様の近くに座り、おばあ様や職人さんの手元を見ていたそうです。

太田さん「いろんな工程の職人さんがいっぱいいました。だから私は、ほんとうに職人さんに教わりながら、父の手元を見ながら覚えられて、いい職人さんがたくさんいたから、すごく幸せだと思う」
房州うちわ振興協議会では、南房総を拠点に職人を目指す従事者を育てています。登録者数は35名、実際に活動している人は10名ほど。彼らに、「あの職人さんの手元を見せてあげたかったな」と、太田さんは言います。
太田さん「私一応できますけど、毎日やってる職人さんの手じゃないのでね。ただできるってだけの手なので、ちょっと違うと思うんですよね。本当にプロ中のプロの職人さんの手元を、みんなに見せてあげたかったな」
意外なことに、職人さんは女性ばかりで、太田さんにとって、聞けば何でも教えてくれる存在だったそうです。

師匠であり、父でもある先代は、太田さんからみてどんな人だったのでしょうか。
太田さん「小さい頃から、工房のものを触ったりいたずらをしたりしても怒られたことがないんです。やり方が悪いとか、こうやらなきゃダメじゃないかとか、そういうのは一切なくて。本当に気軽に手伝うだけで、叱られたことがない」
そして、「古い物はこれ(作業台)とナタくらいしかない」と言うくらい、新しいものが好きで、どんどん新しいものを取り入れる人だったそうです。うちわの形に合わせて型を置いて、骨の端を切り揃える作業も、ほかのうちわ屋さんは持っていなかった裁断機を、太田さんのお父様が最初に取り入れました。
太田さん「江戸っ子の新しいもん好きでね、伝統を重んじるよりも、このままじゃダメだっていう想いの強い人だった。裁断機がなければ、私は跡を継がなかった。型を置いて打ち抜くのは、女の力ではとても無理。もみの機械も作ってくれたり、私がやりいいようにしてくれました」

太田さんに、この仕事の魅力について聞いてみると、「あんまり考えたことがない」というんでいる答えが返ってきました。両親の仕事を手伝っているうちに、自然とこの仕事に就くことになった太田さんにとって、房州うちわ作りは「生活の糧」だと言います。
太田さん「材料を仕入れて、売り先やお金の心配をして、全部ひっくるめて大変なことだらけですよ。それでも、年をとってからの方が楽しいです。いつ辞めようかなって思うことがなくなってくる」
活のためにひたすら作り続けてきた太田さんですが、今は作りたいものを作れるのが楽しいそうです。アイデアを口にすると、それを手伝ってくれる人たちがいるので、「本当に人に恵まれていると思う」と、心の底からの声が漏れていました。
昔は、弟子をとるとお得意さんを分けて独立させていたそうですが、今はもうそういうことができないので、太田さんがこの仕事を継いだとき「もう終わりにしようと思ってた」と言います。ですが、今は違います。

太田さん「育てている従事者たちがたくさんいるので、彼らが活躍してくれるのが私の楽しみです。うちわをはじめるときに、食べていくには大変ですよって話しますが、若い人は違うエネルギーがあると思うから、私が食べていけないと思い込んでいるのと違う形で、伸びていくんじゃないかと思っているんです」
フランスの人たちに、房州うちわがどのように映るのか。そしてこれから、どんな新たなデザインが生まれるのか。房州うちわは使う楽しさだけでなく、作る体験も魅力の一つ。その体験は、南房総ならではです。この夏は、自分で作った房州うちわで、心地いい風を送ってみませんか?
【詳細情報】
名称:うちわの太田屋
住所:〒299-2404 千葉県南房総市富浦町多田良1193
電話:0470-33-2792
※うちわ作り体験については、事前に電話にてお問合せください
公式webサイト
取材協力:うちわの太田屋
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バックパッカーで世界を旅して漂着したのは、千葉県房総半島の安房(あわ)。ボロボロ古民家を仲間と改修しながら、犬猫ヤギと暮らしはじめる。安房の自然にどっぷり浸かりながら、アウトドアや暮らしを堪能しつつ、魅力ある人や場所を紹介している。
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