【千葉市】小さなパン屋、モワティエさん
WRITTEN BY 格さん
自然豊かな環境と、東京にアクセスしやすい立地を持つ千葉県南房総は、移住者や2拠点居住者、ワーケーションなど、多様な暮らし方をする人たちに人気があります。その魅力にはまるのは、日本人だけではありません。緑豊かな里山に建つ、築120年以上の古民家と蔵を改修した「海岸醸造所」のオーナーたちは、フランス人、カナダ人、フィリピン人、中国人など、多様な人たちです。彼らが作るクラフトビールや価値観について、Coaster株式会社オーナーのGueulet Philippe(ギュレ フィリップ:以下フィリップ)さんに話を聞きました。

フランスのマルセイユ出身のフィリップさんは、2002年に仕事で日本を訪れたのがきっかけで、日本に拠点を移しました。世界中から厳選したクラフトビールを仕入れて提供する「COASTERクラフトビール&キッチン」の経営を仲間とスタートし、現在は2店舗を運営。「飲みたいビールを作りたい」という情熱に突き動かされ、南房総に所有していた別荘を改修。2022年に、醸造所をオープンさせました。
1898年に建てられた古民家を購入したとき、業者の人は「壊して立て直した方が早い」と言いましたが、コストがかかっても古い物を活かして守ることを選びます。古き良きものを現代に活かす姿勢は、海岸醸造のラベルにも現れています。いたずら好きで、海で遊び、よくお酒を楽しむと言われている妖怪の「SHOJO (猩々)」や、虹色の霞のような息を吹く巨大な妖怪「OGAMA (大蝦蟇)」など、日本の妖怪をカッコよく現代版にデザインして使用しています。

SHOJOは、活気ある琥珀色の中に柑橘と松のような香りが舞い踊るWest Coast IPAに仕上げ、OGAMAは、柑橘系とトロピカルな香りが詰め込まれています。ほかにも、オールラウンドビールの「KINTAMA(金玉)」、インペリアルスタウトの「UMIBOZU (海坊主)」、海岸醸造の中でもっとも軽くて甘く、スパイスやバナナ、アプリコットの味が感じられる「BAKEKUJIRA (化鯨)」の5種類が定番商品。南房総市のふるさと納税返礼品にもなっています。
里山にある醸造所の敷地からは、海が見える絶好のロケーション。海を汚さない、サステナブルな醸造と最高の品質を求めて、ビール作りを行っています。

一
度に作れる量は500リットル。小ロットでビールを作っているので、常に1~2カ月以内の鮮度を保っています。毎月、南房総の季節のものを取り入れた新しいビールも作り、年間25種類のビールを醸造しています。近所の人にもらった野菜を原料にしてみたり、傷もののブルーベリーや、ときにはシイタケを入れて作ったことも。「シイタケ入りの黒 ビールはうま味が出て、フランスのコンテストでも驚かれました」と、フィリップさんはしてやったりの笑顔を見せました。

古民家の改修が進んでいるとき、地域の人たちの間で「ビールを作るらしい」と、フィリップさんのことが噂になりました。「大丈夫か?」と心配の声もありましたが、フィリップさんは地域の共同作業である草刈りにも参加し、オープン時には地域の人たちを招いてパーティーを開き、交流を深めました。醸造所があるエリアは、地区のなかで班がないエリアでしたが、フィリップさんが声をかけ、10軒以上が集まって新しい班も作られ、「人が抜けていく方が多い中、新しい班を作ってくれた」と、地区の人たちにも感謝され、受け入れられていきました。
そんな地域との交流の中で、原料となる作物を提供してもらったり、醸造の過程で出る麦 芽を、牛のエサとして使ってもらったりして循環させています。地域にある「安馬谷(あんばや)里山」の保全活動を行っている「安馬谷里山研究会」にも入ったフィリップさんは、里山にあるクロモジを利用できないかと考案中です。

ふだんから交流を深めている安馬谷里山研究会の横山武会長は、「孫みたいなものだ」と目を細めながら、フィリップさんの活動を応援していました。
Coaster株式会社は、「CHIBAビジコン2024」で「南房総の酒蔵インバウンドツーリズム」について発表し、創業手帳賞を受賞しました。
「千葉には魅力があるのに、なぜか誰も知らない。オリンピックのサーフィン会場だった一宮町も、海外では知られていない。みんな東京から大阪へ行ってしまう」と、残念がるフィリップさん。
南房総まで足を延ばして魅力を知ってもらうためにも、麦芽からグラスに注がれるまでの醸造工程をガイド付きで見学できるブルワリーツアーや、のんびり過ごせるタップルームをオープンさせました。「将来的には、訪れた人が泊まれるようにバンガローを建てたい」と、夢を膨らませます。

ビールを醸造しているのは、フランス人のMehdy(以下メディ)さん。もともとはCOASTERクラフトビール&キッチン店舗のキッチンで仕事をしていましたが、海岸醸造所の立ち上げとともにビール作りを学びました。「自分の好きなビールを作れるのがいい」と、この仕事を気に入っているメディさんのお気に入りは、サワービール(酸味のあるビール)。「工程が違うだけでサワーになる」と、ビールの魅力にすっかりはまっているようでした。

麦芽、ホップ、水と酵母。この4つが、海岸醸造所で作るビールの基本的な原材料です。醸造所がある蔵の2階には麦芽ルームがあり、海外から取り寄せたさまざまな麦芽が貯蔵されています。見た目は米粒のようで、食べるとシリアルみたいな食感。キャラメルのような味がする麦芽もあれば、焼きそばのような味のものも。ドイツやイギリス、カナダなどから仕入れた麦芽の種類やロースティングでフルーティーな味わいなどを出し、ビールの色味も変化します。

地域の人を招いた交流会では、入れたてのビールを提供できるように、冷蔵庫を使ってDIYしたカウンターが登場。フランスのホップを使い、苦味と甘さのバランスがちょうどいいフルーティーなIPAと、黒ビールの2種類が、このカウンターから提供されました。
青空と青い海が見える庭に集い、この場所で醸造された新鮮なビールを手に人々と交流する時間。みんな自然と笑顔になっていました。
今月末はハロウィン。仮装まではしなくても、いろいろな妖怪が登場するラベルを眺めながら乾杯するのもいいかも?
【詳細詳細】
店名:海岸醸造所
タップルーム営業時間:土・日曜 10:00 ~ 19:00
※ブルワリーツアーは要事前予約
住所:〒299-2522 千葉県南房総市安馬谷218-1
公式webページ(外部リンク)
取材協力:海岸醸造所
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バックパッカーで世界を旅して漂着したのは、千葉県房総半島の安房(あわ)。ボロボロ古民家を仲間と改修しながら、犬猫ヤギと暮らしはじめる。安房の自然にどっぷり浸かりながら、アウトドアや暮らしを堪能しつつ、魅力ある人や場所を紹介している。
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