【横浜市】の歴史を語る上で欠かせない“美しい博物館”のようなクラシックホテル「ホテルニューグランド」
WRITTEN BY 佐原ねお
「声をかけても人が来ない」「家族はドライ」
これらの言葉が、“自分の父親や夫の声”だったら、あなたはどう感じますか…?
夏になると、地域のお祭りやプール清掃などでたびたび目にする、おそろいのTシャツ姿の“おやじたち”。その活動の背景をたどると、神奈川県藤沢市には「おやじの会」が数多く存在し、ギネス挑戦や花火大会など、独自の地域貢献を展開していることがわかります。しかしその一方で、参加者不足や継続への悩みも。地域と学校、そして家庭の“はざま”に立つ父親たちの今を取材しました。

2025年6月21日。藤沢市民会館第2展示ホールにて開催された、「藤沢市おやじサミット2025」。

藤沢市内の公立小中学校55校のうち、17の「おやじの会」から約40名が集まり、活動報告や振り返り、今後の運営に向けた意見交換が行われました。

活動報告では、プールや側溝清掃、運動会の警備、地域の見回りに加え、お祭りや球技大会、「逃走中」など、多彩な取り組みを紹介。


多くの団体が課題や工夫を交えつつ笑顔で報告を行う中、昨年「第21回全国おやじサミットin藤沢」(全国46団体・藤沢市内11団体の「おやじの会」が参加)で実行委員長を務めた中田 竜也さんは、「やめようと思ったこともあった」と声を詰まらせる場面も。
涙の理由が語られることはありませんでしたが、その後の取材を通じて、筆者は中田さんの“ある記憶”と向き合うことになります。

藤沢市の資料によると、市内には55の公立小中学校があり、そのうち24校に、子どもたちの安心・安全な環境づくりや学校支援を目的とした「おやじの会」があります。
参加資格は保護者であれば基本的に誰でも可能で、“おやじ”という名称ながら、女性も参加することができます(…となると、ジェンダーや多様性の観点から、“名称のアップデート”を検討してもよい時代かもしれません)。

「第21回全国おやじサミットin藤沢」の広報委員長を務めた関さんによると(昨年の「全国おやじサミット」に向けた非公式調査による)、コロナ禍で全国の9割以上の「おやじの会」が一時活動を停止したものの、2024年時点で約半数が再開している印象とのこと。活動状況の背景には、コロナだけでなく、“参加者の減少”という根本的な課題もあると言います。そうした状況を踏まえると、藤沢市では登録団体数の減少が見られず、学校や地域と連携しながら継続的に活動を展開している点は、全国的にも“好例”と位置づけられるでしょう。

表舞台で語られた課題や熱意の裏で、現場の“おやじ”はどんな日々を過ごしているのでしょうか。ここで、あるお父さんの週末を追いかけてみます。
先に述べた通り、「第21回全国おやじサミットin藤沢」の広報委員長であり、「藤ヶ岡おやじの会」のメンバーでもある関さん。イベントの開催は年に数回と決して多くありませんが、今回は関さんの週末の1コマ(中学校の体育大会をサポートするようす)を少しご紹介します。
4:30 起床
6:15 車で、のぼり旗や飲み物等を学校に運搬
6:45 自転車に乗り換え学校に登校〜体育大会準備(テント、机、椅子など)〜校内パトロール等
12:15 お昼休憩
13:15 体育大会片付け
14:30 帰宅〜道具片付け
18:00 行きつけの焼鳥屋さんで「おやじの会」反省会
23:00 帰宅
24:00 就寝
スケジュールを見ただけで伝わる熱量。参加はあくまで任意ですが、数時間に及ぶイベントの準備や片付けには、当日の支援に加え、事前の綿密な計画が不可欠と見えます。
例えば、学校の側溝やプールの清掃といった作業については、「本来は行政がすべき領域なのでは?」「本当に無償で行っているのか?」といった指摘の声も一部にはあります。

「本来は行政がすべき領域なのでは?」という疑問について、「藤沢市おやじの会連合」は「おやじの会は保護者の“自主的な集まり”であり、行政の業務とは別物と考えています。それでも藤沢市は非常に協力的で、サミットも当初は市主催で開催されていました。活動の際は、市長や教育長、教職員など、多方面から支援を受けています」と説明します。

とは言え、「おやじの会」の活動は、学校行事の運営補助や清掃、安全管理など、いわば“労働”のように見える部分も。その実態について、法的にはどのように位置づけられるのか。NHK「おはよう日本」などで労働法の解説を務める、成蹊大学法学部法律学科の原 昌登教授(専門分野/労働法)に話を伺いました。
「無償の“労働”のように見えても、法的にはあくまで“ボランティア”」
会社員等が給料をもらえる根拠は、実は「働いたこと」そのものではなく、労働契約にあります。会社等と「労働をする代わりに給料が支払われる」という労働契約を結んだ上で働くからこそ、給料が発生します。したがって、会の活動の内容が質・量ともに「仕事」「労働」といえるような場合でも給料は発生せず、ボランティア活動という位置付けになるわけです。
ただ、2022年10月からは、労働者協同組合法という法律により、組合に出資・運営するメンバーが、自らその組合の事業で働き、給料を得るという働き方が可能になっています(厚生労働省 公式ホームページ※外部リンク)。今後はこうした法律の活用も考えられるようになっていくのかもしれません(成蹊大学法学部法律学科・原 昌登教授より解説。※2025年6月23日取材)。
参加者の声や原教授の見解からも、「おやじの会」の活動はあくまで“任意”であり、報酬の発生しない“ボランティア”であることは明らか。しかしながら、「おやじの会」の運営費確保に苦慮しているとの声も一部で聞かれる実情を踏まえると、将来的には法制度を活用する選択肢も現実味を帯びてくるのかもしれません。

全国に4,000以上あるとされる「おやじの会」は、PTAの一部として運営されることもあれば、地域住民が自由に参加できる形もあり、その組織形態や活動内容に明確な定義はありません。ただし、共通するのは「地域の子どものために活動する」という姿勢。
そもそも、各小中学校にはPTA、地域には町内会や子ども会などの組織がある中で、なぜ多忙な父親たちによる「おやじの会」が必要とされるのでしょうか。藤沢市、そして学校に「おやじの会があると無いとで何が違うのか?」「消滅したらどうなるのか?」その危機と意義を関係者の声から探りました。

回答者①
藤沢市内の公立小中学校に3人の子どもを通わせているTさん(長男は公立小中を卒業、長女は公立小から市外の私立中へ進学、次男は現在公立小に在学中。PTA活動にも参加)と、同じく藤沢市内の公立小中学校(在学中)に子どもを通わせているYさん。夫は今年度より「おやじの会」に加入。※2025年6月26日取材)。
質問:「おやじの会」があると無いとでは何が違う?
回答:「おやじの会」のある公立校では、ひと目で“おやじの会”とわかるお父さんたちが、学校行事や地域で見守ってくれる安心感があります。いざというときの頼もしさも感じますし、とくに警備面では“そこにいてくれるだけで”トラブル防止につながっていると思います。
質問:「おやじの会」が消滅したらどうなるのか?
回答:学校行事の警備などは、PTAを中心に保護者が協力していますが、実際は母親が中心で、万が一の場面で適切に対応できるか不安を感じることもあります。また、小さな子どもを連れて参加する方も多いため、力仕事や警備面での支援は本当にありがたいです。
地域のお祭りやイベント、駅周辺のパトロールなど、日常の中で「おやじの会」のお父さんたちの活動にふと気づくことがあります。とは言え、子どもに関わる学校行事はどうしても母親の参加が主で、父親が関われる場面は入業式や卒業式、運動会などに限られがちです。だからこそ、地域で支え合う「おやじの会」の存在がなくなるのは、少し寂しく感じます。
回答者②
「新林おやじの会」の坪根さんの声
「おやじの会」もPTAも、本来は有志のボランティア活動です。そうした“誰かのために動く気持ち”が薄れるのは寂しいことですね。「おやじの会」の消滅は考えたことがなく、楽しく活動しながら次世代に引き継ぎ、子どもたちもボランティア参加できる場を増やしたい。たとえ1人でも、おやじ(おふくろ)がいれば会は続くと考えています。
回答者③
藤沢市立明治中学校 大石 由佳 校長の声(2025年7月7日取材)
当校の「おやじの会」は、学校と適切な距離感を保ちつつ、教職員の手が届きにくい行事の警備や校舎の修繕などの課題をていねいに汲み取り、多方面で支えてくださる“学校の盾”のような存在です。こうした支援が途絶えれば、学校や生徒たちに少なからず影響が出るのは間違いありません。しかし、近年の制度改正により、保護者と学校が交流する機会が減少し、日頃のご支援に対する感謝の思いを直接お伝えする場が限られてきていることに、歯がゆさも感じております。活動の恩恵は“すべての生徒”に及んでいます。だからこそ、「おやじの会」への加入有無にかかわらず、この貢献に対する感謝の心を、生徒たちをはじめ、教職員や地域全体で共有し続けていけたらと願っています。
回答者④
藤沢市内の小中学校(「おやじの会」が設置されていた学校)を卒業した現役高校生の声(2025年6月28日取材)
小学生の頃は、いつ・何をしている人たちなのか、正直よくわかっていませんでした。でも、「いつも何かしてくれている」「見守ってくれている」そんな存在として自然と意識していた気がします。中学校の運動会やプール清掃で見かけたお父さんたちの姿は、今でも印象に残っています。あのTシャツ姿も忘れられません。特別に話すことはなかったけれど、いなくなったらきっと困る、そんな存在です。

ここまで、藤沢市の「おやじの会」について、専門家の見解や関係者の声を通じて見てきました。地域や学校とのつながりを支える存在として、やはり「必要とされている」という実感が伝わってきます。一方で、取材時に「『おやじの会』最大の課題は?」と尋ねると、関さんは「声をかけても人が来ない(集まらない)こと」と即答。加入者は一定数いるものの、新たな参加者の募集には苦労しているのが現状と言います。

こうした課題をどう乗り越えるか。そのヒントを探る場となったのが、「藤沢市おやじサミット2025」内で行われたアイデアソン(短時間で集中的にアイデアを出し合う討論形式)です。ここでは、「勧誘の秘策」と「イベントマンネリ化の打開策」という2大テーマに絞り、各グループが活発に議論を交わしました。

特に「勧誘の秘策」については、工夫を凝らした取り組みから苦労の実体験まで、さまざまな声が噴出。

たとえば「幼稚園イベントへの参加を通じた早期アプローチ」「親しい関係性を活かした声かけ」「QRコード付きチラシとLINEオープンチャットの活用」「家族ぐるみで楽しめるイベントの開催」など、勧誘の工夫や具体的なアイデアが多くあがりました。

一方で、“加入する側”はこれらの工夫をどう受け止めているのか。藤沢市内の公立小中学校に子どもを通わせるYさんは、今年度からご主人が「おやじの会」に加入。そのきっかけと思いを聞きました。
夫はもともと地域団体に積極的に参加する性格ではなく、「関わらない自由」も選択肢と考えるタイプでした。また、完成された輪に入る不安もあったようですが、親族の集まりで出会ったOBとの縁で加入を決めました。
普段は都内で勤務している夫は、平日の学校行事への参加は難しく、地域との関わりもほとんどありません。ただ、子どもが巣立ったあとの暮らしを見据えたとき、夫なりに「家族や地域とのつながりを築くきっかけになれば」と考えたようです。入学式などの場で「加入しませんか?」と直接声をかけられていたら、おそらく断っていたと思います(笑)。ですが、今回はご縁を通じた自然な流れでの参加だったため、本人もそれほど負担には感じなかったみたいです。
「おやじの会」初参加の日は、緊張からか疲れをにじませていましたが(笑)、その後は歓迎会まで開いていただき、2次会まで楽しんで帰ってきました。今では「できるときに、できることを」の気持ちで、前向きに参加しています。
続いて、「おやじの会」に未加入のTさんにも話を聞きました。
わが家は自営業を営んでおり、休日も一定せず、現在のところ「おやじの会」への参加に必要な時間を確保することが現実的に難しい状況です。また、「おやじの会」の活動の存在は認識しているものの、自分の生活や価値観と接点を感じにくく、あえて深く関わろうという意識には至っていません。
地域活動への勧誘が強引に感じられたり、PTA役員選出の場面で沈黙が続くなど、「気まずさ」を覚える人は少なくないはず。だからこそ、自然な縁やタイミングで無理なく関われるような“溶け込み方の工夫”が求められているようです。
また、保護者世代には「おやじの会=飲み会」という固定観念が残る一方で、令和の現在では、つながりの形も多様化。飲み会という形もあれば、アプリ等を利用したオンライン交流や家族参加型イベントなど、「気づいたら関わっていた」「できる時だけ参加する」といった、“負担の少ない緩やかな関係性”が、これからの地域参加の鍵となりそうです。

“おやじ”という昭和な名称とは対照的に、Tシャツ・ビーサン・片手にサングラスというカジュアルな装いながらも、IT企業のブレインストーミングを彷彿とさせる効率的な運営が印象的だった『藤沢市おやじサミット2025』。
参加者はスマートフォンでQRコードを読み取り、リアルタイムで意見を入力・集計・共有。紙や沈黙に頼らない全員参加型の議論で、世代や立場を超えたさまざまな声が反映されました。そんな力強さに満ちた藤沢のお父さんたち。4時間にわたるイベントは、大きな余韻を残して幕を閉じました。

サミット終了後、“複雑な感情がにじみ出た涙の背景”を、あらためて中田さんに尋ねた筆者。
2023年、愛媛で開催された「第20回全国おやじサミット」を視察した中田さん。そこで感じた熱気と勢い、そしてこれまでの活動実績を評価され、「全国おやじサミット」の次期開催を引き受けることに。
しかし、動き出してからの9か月は想像を超える重圧の日々。「藤沢市おやじの会連合」は、“全国的に注目される熱量の高い団体”というプレッシャーと責任が中田さんにのしかかり、時には人間関係に緊張が走る場面もあったといいます。
そのなかで、中田さんに「大丈夫、お前ならできる。頑張れ!」と静かに声をかけてくれたのが、今は亡き「おやじの会」大先輩OBの“お父さん(通称)”。
その言葉は、重責に押しつぶされかけた中田さんを、最後まで静かに支え続けたそう。あふれた涙は、恩人に感謝を伝えられなかった無念と、長期にわたる任務を終えた安堵のあらわれ。今も胸に深く残る、「人生の一幕」なのだと話してくれました。

地域に関わることは、ときに時間も体力も要る大仕事かもしれません。ですが、中田さんの話から、“誰かのために動いたという事実”は、きっと“次の誰かの背中を押す原動力”になっている——そんな確信が芽生えてきます。
そうした思いを教えてくれた、藤沢市の「おやじの会」の“おやじたち”。
「家族はドライ」なんて肩を落としながらも、とにかく楽しそうで誇らしげ(口には出さずとも、家族もまた静かに活動を支えているのでしょう)。昭和の面影を残しながら、地域に尽くすその姿は、まさに“縁の下の力持ち”という言葉がぴったり当てはまると感じました。

「湘南・藤沢の人はあたたかい」とよく言われるこの街で、「声をかけても人が来ない」という現実に、正直なところ、最初は思わず「どうしちゃったの藤沢市…」と戸惑いを覚えた筆者。けれど取材を重ねるうちに、「ちょっと手伝ってみてもいいかも」「自分にも何かできることはないだろうか?」と、少しずつ気持ちが動いていったのもまた事実。
この記事を読んで、そんな思いが少しでも芽生えたなら…。「関わらない自由」が尊重される時代だからこそ、私たちひとりひとりが「関わる意味」を見直してみてもいいのかもしれません。
“わたしのペース”での小さな一歩が、この街に新たなつながりの波を起こす。そんな可能性を感じさせてくれる、藤沢市の「おやじの会」の取材でした。
※「おやじの会」への問い合わせや入会希望の連絡は、メールアドレスよりお願いいたします(oyaji.rengou.fujisawa.city@gmail.com)。
基本情報
名称:藤沢市おやじの会連合
問い合わせ:oyaji.rengou.fujisawa.city@gmail.com
公式 ホームページ(外部リンク)
公式 Instagram(外部リンク)
公式 Facebook(外部リンク)
※詳細は『藤沢市おやじの会連合』の公式サイトをご確認ください。
参考資料
藤沢市内の「おやじの会」(外部リンク)
「第21回全国おやじサミット in 藤沢」について(外部リンク)
成蹊大学法学部法律学科 原 昌登教授(専門分野/労働法)(外部リンク)
厚生労働省 公式ホームページ(外部リンク)
取材・撮影・校正協力
藤沢市おやじの会連合 関様、坪根様、中田様
藤沢市役所 市長室 秘書課様
藤沢市立明治中学校 大石 由佳 校長
成蹊大学法学部法律学科 原 昌登 教授
藤沢市在住 保護者T様、Y様
SHARE:
ころんころ
神奈川県を中心に活動するライター。
「読まずにいられない記事タイトル」を信条に、地域の魅力や出来事を伝える。
2021年~2026年まで Yahoo!ニュース エキスパート 地域クリエイターとして活動。
2024年には ベストエキスパート2024 を受賞。
このほか、昭文社「まっぷるトラベルガイド」をはじめ、複数媒体・紙面で執筆。現在は「湘南経済新聞」などで執筆する。
元証券会社人事部出身。
年金アドバイザー資格(最上位2級)を持ち、キャリアや生活に関するテーマにも強みを持つ。