【東京都杉並区】荻窪の路地裏にオープンして6年目。「美味しいものを少しずつ」をポリシーに、創意工夫に満ちた進化形の和食が味わえる店。
WRITTEN BY 酔街草

本格的な冬の到来と共に、脳裏に浮かぶ一軒の焼き鳥屋がある。定番の地鶏に加えて、真鴨や小鴨などの野鳥を炭火で焼いた串で提供する店だ。
脂ののった真鴨の野趣溢れる味を思い起こしてしまったが最後、居ても立ってもいられなくなり、気がつけば夕暮れ時の京王井の頭線に乗って西永福へと向かっていた。
西永福駅の南側、ものの1分も歩かない内の線路脇にポツンと赤提灯を灯すのが『焼鳥 波田野(はたの)』である。2024年の9月に開店15周年を迎えていたのだが、前回訪問してから彼此10年近くは経ってしまったであろうか。
余りに不義理過ぎて暖簾を潜る際は気後れする思いだったのだが、店主の波田野宣広さんの「お久しぶりですね~!」のひと声に、そんな雑念はすっかり吹き飛んでしまった。
串を平らげながら、しばし昔話に花が咲く。

厨房前のL字のカウンターは9席と開店当時のままだったが、小上がり部分がテーブル席に改装されていて、12人近くが椅子に座れるようになっている。
小ぢんまりとした店内は、宣広さんともう一人でのオペレーションとあって、”目の行き届くサービスを提供したいからこの広さで充分”と、昔に聞いた覚えが蘇った。

宣広さんの話好きは先代の親父さん譲りだ。焼き台の前では、左手でパタパタと団扇をあおぎながら右手で串を表裏にしつつ焼くのだが、その間であっても客との会話は途切れる事はない。店のアットホームな雰囲気に絆されて、地元住民の常連客が多いと言うのにも納得がいく。
早速、「今日は野鳥はないの?」と聞いてみたところ、「ここ数年、入荷が無いんですよ~」との返答。何でも渡り鳥の生態が変化していて、以前は茨城県辺りまで南下していた真鴨も、北海道か青森県止まりで狩猟そのものができなくなったのだそう。地球温暖化の悪影響が、ここにも如実に現れているような気がして誠に残念、無念。
さらに残念なことに、先代の波田野浅吉さんは2021年にお亡くなりになっていたと言う。後述するが、先代とは渋谷店の頃からの付き合いだっただけに、なぜもっと早く再訪しなかったのだろうと今更ながら悔やまれる。

気を取り直してカウンター席に座り、まずは名物の「つくね」をオーダーし、ビールで浅吉さんに献杯。これまた『焼鳥 波田野』ならではの阿波尾鶏を混ぜたお任せで3~4串を追加する。
四国・徳島県名産の阿波尾鶏は、大振りながら繊細な味わいが楽しめる鶏であるが、まだ関西圏での流通が主流だった頃、東京でいち早く取り入れたのが渋谷の『焼鳥 波田野』だった記憶がある。

紀州備長炭で丁寧に焼き上げられた串はバットの上に載せられ、客が自分で小皿に移して食べるのがこの店の流儀だ。つい話に夢中になって取り忘れている場合などは、「温め直しましょうか?」との細やかな気配りも嬉しい。

「つくね」は、練り込んだ柚子の風味を損なわないよう塩のみで提供される。肉質が良いので、タレも濃過ぎずにサラリとした感じなのが好きだ。
「つくね」と並ぶ名物に、ステーキのような厚みの「大串モモ」があるのだが、メニューにこの串だけ(塩・タレ・みそ)の記載を発見!
〆の1本を味噌味でと行きたかったが、すでに満腹。次回トライすることにしよう。

メニューの品揃えは相変わらずの充実ぶり。「焼鳥丼」や「ササミ茶漬け」など、飯物が増えているのは知らなかった。家族連れの客も多い、西永福という土地柄のせいかも知れない。



日本酒は種類こそ少ないものの、この店の焼き鳥に合わせたどっしり系が揃う。まずは「男山」を流し込み、ふと目についたミニボトルのワイン(赤・白 各740円)へと移行する。

その日のメニューは黒板に記載。実は「うなぎ太巻串」も隠れた名物なのだ。

箸休めに最適の「みょうがスライス」。そう言えば渋谷に店があった当時から、一年中「みょうが」がメニューにあるのが不思議だった。


まだ、西永福に開店して間もない頃の宣広さんと真鴨の写真が残っていたので掲載しておく。鴨にはやはりネギが欠かせないのだ。

酔街草の『焼鳥 波田野』との付き合いは平成の時代に遡る。
井の頭線渋谷駅西口改札の目の前に構える『渋谷 森本』に通い始めて間もなく、この1948年創業の老舗の焼き鳥屋で20年間務めていた先代の波田野浅吉さんが独立し、平成12年(2000年)に同じ通り沿いのビルの2階で開業したのが切っ掛けだった。
カウンター8席のみの小さな構えで予約は一切不可。不定休で、灯りがついていれば営業中という知る人ぞ知る店でもあった。
冬の楽しみが言わずもがなの野鳥。真鴨や小鴨以外に雉や寒雀が入荷したこともあり、野鳥目当ての常連客は我れ先にと注文したものである。
浅吉さんが雁首がついたままの丸の身を、包丁1本で手際よく捌く様をカウンター越しに眺めては生唾を呑んだものだ。真鴨は1羽から6本、小鴨なら4本の串になった。
1羽から1本分しか作れない希少な「肝串」や骨からこぞげ取った「小肉」は、超常連客のみの特権。自分にも焼いてもらえるようになったのは、宣広さんが店を手伝うようになった頃からだったと思う。

やがて宣広さんが独立し、生まれ育った西永福に店を出したのが平成23年(2011年)。当初は『焼鳥 波田野 西永福分店』と称していた。
渋谷の本店は浅吉さんの体調不良やビルの解体決定などもあって2018年の9月に閉店したのだが、亡くなる数カ月前まで西永福の焼き台に立つ日もあったそうだ。
「親父には板前衣装を着せて、棺桶に山ほどの煙草と店で出している串を全種類入れました。生涯焼き鳥屋として見送りしたかったんで、きっと親父も本望でしょう」と、宣広さんは和やかに語ってくれた。
さてさて、今宵も大満足~ご馳走様!
『焼鳥波田野』
住所:東京都杉並区永福3-34-9 小林ビル 1F
アクセス:京王井の頭線 西永福駅徒歩1分
電話番号:03-5300-8110
営業時間:月・水・木・金・土/17:00 – 22:30 日・祝日/17:00 – 22:00
火曜日定休
*現金のみ
(この記事は「Yahoo!ニュース エキスパート」2024年12月21日掲載時の内容です。現在の価格、営業時間、定休日などは最新情報にてご確認ください)
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