【横浜市】の歴史を語る上で欠かせない“美しい博物館”のようなクラシックホテル「ホテルニューグランド」
WRITTEN BY 佐原ねお
紀(きの)あささんを初めてお見かけしたのは、写真を撮影している姿でした。あささんは“写真家”です。そして時に撮影される側でもある“大道芸人”でもあります。
今回は多彩な顔を持つあささんの、手回しオルガン奏者としての活動をインタビューさせてもらいました。

写真家として写真集も出版し、横浜の情報を発信するフォトライターとしても活躍されるあささんは、北海道で「はこだて観光大使」として函館の魅力を伝える活動もしています。3年に一度の芸術祭「はこだてトリエンナーレ」の実行委員でもあり、手回しオルガン奏者として出演するパフォーマーでもあるのです。
筆者は手回しオルガンというものが、そもそもどういうものなのかよく知りませんでした。手回しオルガンは、欧州発祥の「ストリートオルガン」とも呼ばれるもので、日本であまり目にすることの少ない自動演奏楽器。あささんは、函館でオーダーメイドしてもらった手回しオルガンを使用しています。

あささんが手回しオルガンに触れたのは、写真家として撮影で訪れたフィンランドでした。実際に目にする前から、心に残る“出会い”はすでに始まっていたのです。そのきっかけとなったのは、石畳の街中から聞こえてきた柔らかな音色でした。
石畳に音が反響し、どこから聞こえてくるのかわかりません。放送なのか楽器なのか正体もわからないまま角を3回曲がり、やっと見つけ出したのが、おじいさんの奏でる手回しオルガンでした。その美しい音色に「すごい!」と魅了され、それが手回しオルガン奏者となるきっかけになったのだとか。

あささんは手回しオルガンの魅力を、日常の中にふっと溶け込んでいく出会いだと語ります。「この世界にこんなものがあるんだ」という感動が、普段の生活の中でふいに訪れることに味わい深さがあるのだそうです。街角で思いがけず耳にする優しい音色は、人の足を止め、ほんのひととき日常をやさしく彩ってくれます。
小さな驚きや喜びを届け、人々の心を自然に引き寄せてくれる“手回しオルガン奏者”という存在。人に笑顔を届けたいと願うあささんが、その道に心惹かれたのは、ごく自然なことだったのかもしれません。

現在、函館でオーダーメイドした手回しオルガンをメインに使われているあささん。オーダーメイドの手回しオルガンを使い始める前は、ドイツ製の手回しオルガンを使っていました。
その楽器を貸してくれたのは、あささんが「まるで、あしながおじさんのような存在だった」と語る手回しオルガン愛好家の男性。手回しオルガンについて熱心に尋ねていたあささんに、「そんなに好きなら」と貸してくれたのだそうです。そこから手回しオルガン奏者としての活動が始まります。

手回しオルガンをオーダーメイドで仕立てるとなると、もちろん安いものではありません。当時「人形振り」というパフォーマンスもして投げ銭をもらっていたあささん。小さな子が大事にしていたお小遣いから差し出してくれたりするお金を、なかなか使えなくてずっと貯めていました。
街の人からの気持ちである投げ銭100%で手回しオルガンを仕立てようという想いを抱き、函館の職人さんのもとに通い始めたのです。そして、ついに目標の金額が貯まり、オーダーメイドの手回しオルガンを迎えることができました。いつか誰かがくれたお金で演奏されるその音色は、また別の誰かの心をあたためていく。優しさの循環が、街の中で奏で続けられています。

そんな想いがこもったオーダーメイドの手回しオルガンは、旅をしながら運び込んで奏でることも多いため、慣れるまでは大変だったということ。函館市内なら職人さんのもとに相談にいけばいいのですが、遠方で想定外に動かなくなるというハプニングがあると電話で説明しながらメンテナンスをしなければなりません。
最近では「おそらくここだろう」と不具合の見当がつくようになったと言いますが、公演中に動かなくなったこともあり、即興でトークなどをしてつないだこともあったそうです。

いまや手回しオルガンは旅の相棒のような存在になりました。手回しオルガンの音色は、函館から横浜、そしてまた新しい出会いのある場所へと運ばれていきます。
オーダーメイドの手回しオルガンのデビューは、2012年のハコダテ・トリエンナーレでした。いまは実行委員としてイベントを支え、また奏者としても出演します。「デビューをさせてくれた場所なので、イベントを成功させたい」と、あささん。
今後はデュオでの演奏にも挑戦していきたいと語ります。街中により豊かなハーモニーが聞こえてくる日は近いかもしれません。

横浜と函館の二拠点生活をされるあささんは、「ヨコハマ経済新聞」のライターとしての仕事を持つ横浜を主に拠点を置いて生活することが多いそう。いまも手回しオルガンを自力で運びながら、横浜でも演奏を披露します。直近では初夏に演奏する場があるとのこと。近くなったらお知らせがあるそうなので、詳しくは以下あささんのサイトでご確認ください。
今回は「手回しオルガン奏者」としての紀あささんを紹介させてもらいましたが、実は伝説の大道芸人と呼ばれる方の黒衣役としてパフォーマンスを支える顔も持っています。そのお話は、またいつか。
記事で掲載した写真は、ご本人からの提供画像です。ご協力いただき、ありがとうございました。
*こちらの記事は、2026年3月23日にYahoo!ニュースにも掲載された内容です。
紀あささん
紀あささんの活動についての詳細は、こちらのサイトをご覧ください。
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